少女漫画みたいな恋がしたい

私は少女漫画がだいすき。学校ではいつも友達と少女漫画の貸し借りをしている。
どちらかと言えば私がおすすめの少女漫画を押し付けているような形なんだけど。

「ねえ、この漫画どうだった?」
「んも~すごいキュンキュンした!告白のとことかすごい良かった!」
「だよねえ、わたしもあんな告白されてみたい~」
夢見すぎだって、まあ私もだけど!」
「えへへ……」

 いつも紙袋に厳重に包んで貸し借りし合うのが私たちの間で習慣化されていた。友達から漫画の入った紙袋を返してもらおうとしたその時、パッと別方向から手が伸びてきて大事な漫画を奪われてしまった。

「おっこれなんだ??」

 クラスの悪ガキこと茂部くんが紙袋を奪い取って中身を漁る。

「ちょっと返しなさいよ!!」

 友達の声も無視して茂部くんが漫画を手に取る。

「はあ?なんだこれ少女漫画かよ……こんなん読んでたらモテねーだろ」
「ちょっと、やめてよ……」

 私が手を伸ばしても身長が足りなくて奪えない。ゲラゲラ笑いながら音読し始めようとする。最悪だ、こういう事をされるからまわりの男子が嫌いになってしまう。

「なになに、俺がお前を守ってや―――うぐっ!?」

 茂部くんは襟首を急に引っ張られていた。そこには金髪、ツーブロックの髪型をした男の子が茂部くんを掴み取り睨んでいた。

「なにしょうもねーことしてんだ」
「げっ……松野じゃん」
「その子の物返してやれよ、クソダセェ」

 茂部くんはその言葉にカッとなり紙袋を松野くんに投げつけようとしたけど、手が滑り、中に入ってる漫画が廊下に散らばってしまった。

「わ、私の漫画が……!」
「一体なんの騒ぎなの!?」

 先生がタイミング悪くこの惨状に居合わせてしまった。

「お、俺は知らねーから!!」
「あっ!おい」

 松野くんの声も無視して茂部くんは素早く逃げて行く、先生が床に落ちた私の漫画を手に取る。

「これ、さんの?」
「……はい」
「これは没収します、放課後職員室に来てくれるかしら」
「……はい」

 最悪だ、今日は厄日だ。

「おい、こいつは何も悪くねぇだろ」
「漫画は学校に持ち込み禁止よ、さんも分かってるよね?」
「はい……すいません……」

 松野くんが庇ってくれる、なんだか申し訳ない。
チャイムが鳴り見物していた生徒たちも散らばっていった。

「ほら、貴方たちも教室に戻りなさい」

 先生が私たちを教室に戻るように促し松野君は舌打ちをしながら去っていった。
私もクラスに戻り自分の席に着く。

「ごめん、私が茂部に漫画取られなかったらこんな事にならなかったのに……」

 友人が申し訳なさそうにしていた。

「ううん、私こそなんかいつも茂部くん突っかかってくるし、上手くかわせないし……」

 私たちはため息をつく。

「でも松野くんだっけ?不良っぽいけどいい人だったね」
「う、うん、ちょっとカッコよかった……」
「ん~? ちゃん惚れちゃったかなぁ?」
「そういう事じゃないってぇ……」

 ちょっとだけいいなって思っただけなのに、友人の茶化しで顔が熱くなる。

***

 放課後、私は職員室に向かう、友人も一緒に行く! なんて言ってくれたけど断った。これ以上迷惑かけたくないし……。
コンコンっとノックして失礼しますと言い入ると先生が座っていた。

さんね、そこに座ってくれるかしら」
「はい……」
「はい、これ返しますね」
「はい……って、え、いいんですか?」

 先生は没収した漫画を渡してくれた、もっと長い期間没収されるものかと思ったのに。

「あんな騒ぎになってたから没収って体裁にはなったけど、さん真面目だし貸し借りしてただけでしょ?」
「せ、せんせぇ~」
「くれぐれも学校では読まないようにね、貸し借りは素早く誰にも見られないでやってね」
「はい……ありがとうございます……!」

 意外にも先生は私の味方をしてくれた。

「あと、向こうにいる子にも言っておいて」
「え?」

 先生が指さす方向を見ると職員室のドアの窓から松野くんがこちらを覗いていた。
目が合った途端ぴゅっと隠れてしまった。え、どうしたんだろう……?

「あの子、あなたの事心配してるのね、早く行ってあげてね彼女さん」

 先生は笑いながらそんなことを言ってくる。

「ちょ、ちょっと待ってください、私そんなんじゃ……」
「はいはい、でも心配させてるんだから行ってあげなさい」
「は、はい……」

 職員室を後にし扉を開けるとしゃがみ込んでいる松野くんがいた。

「あっ…………」

 松野くんがこちらを見る、なんだか気まずそうな、なんともいえない顔をしていた。

「松野くん……えっと、待っててくれたの?」
「お前が、俺のせいで怒られてないか心配で……」

 松野くんがそんなに心配してくれるなんて思ってもみなかった……胸の奥がなんだかきゅうっと締め付けられるような不思議な感覚になる。

「先生怒ってなかった! ほら、漫画返ってきたの!」

 私はカバンを開け漫画を彼に見せるとホッとしたような顔を見せてくれる。

「はあ~良かった、お前の事守ろうってしたのに、あんな事になっちまって、ホント俺カッコワリぃ……」
「そんな、すごくかっこよかった!! 嬉しかったよ!」
「ほんとか!?」

 さっきまでしょんぼりとうなだれていた松野くんの表情がパァっと明るくなる。廊下での出来事にいた人とは思えない、印象と違いすぎる……。
男子にこんな事思っていいのか分からないけど、なんか、かわいい、かも。

「本当ありがとう……わたし、いつも茂部くんとかに、からかわれやすいっていうか、上手く言い返せないし……」
「なんだよそれ、どうせの事かわいいから気をひきてーんだろ」
「そうかなぁ……ってかわっ!?」
「ん?……あっ、いや、みんなそう思ってんじゃねえのって話で……」
「そ、そうだよね!あはは、うれしいなあ~」

松野くんがあたふたしている、私まで恥ずかしくなってなんだか変な取り繕い方をしてしまった。

「あー、それよりその漫画、俺にも貸してくれねえ? 俺もその漫画気になってたからさ」
「松野くん少女漫画読むの?」
「おう! 漫画ならなんでも読むけど最近少女漫画もハマってる!」
「そうなの? じゃあこれ貸したげる!」
「やった! ありがとな!」

松野くんは本当にうれしそう、こんなに喜んでくれるなんて思わなかった。

「茂部のこともなんかあったら俺に言えよ、守ってやるから」
「そんな、悪いよ!私のせいで、また松野くんまで巻き込んだりしたくないし……」
「いいってそのくらい、次はちゃんと守る。だから困ったことがあったらいつでも呼べよ」
「う、うん……あっ連絡先教えて貰って良いかな?」
「あっそーだな、赤外線で良いか?」
「うん、ありがとう!」

お互いのケータイを近づけて交換する。ああ、だめだ、なんかドキドキして手が震える……松野くんにはバレてないよね?

「よし! のアドレス登録しといた、いつでも連絡しろよ!」
「うん、連絡するね! また明日ね!」
「ああ、また明日な!」

松野くんのおかげで嫌な事なんて吹き飛んで行ってしまった。
男の子なんて苦手だなんて思ってたのに、彼は他の男の子と違うみたい。
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